2022年05月11日の記事一覧
◎2022年05月11日 ---- ボス ◎
- よく頑張った。
-
30年前の出来事である。当時私は練馬区の石神井に住んでいた。最寄りの駅は西武池袋線の井荻。井荻駅から徒歩12分のマンションだった。平野ノラさんがお笑いネタにするあの弁当箱のような携帯電話を持たされそれを肩に担いで通勤していた。その携帯電話に連絡してくるのはただ一人、私の上司、Sさんだけだった。◆長男が1歳になったばかりの頃だ。その日、私は久しぶりに早く帰宅できそうだった。早いと言っても自宅前に着いたのは午後8時半ころ。この時間ならまだ息子は起きているだろう、と楽しみに帰路を急いでいた。あと30mで自宅マンション、というところで弁当箱が鳴った。「キノシタさん、いま、どこですか?」とSさんの声。ここで「もう自宅前です」と正直に答えればいいものを、私は「今、高田馬場駅の近所です」と答えてしまった。Sさんは嬉しそうに「そうですか、じゃあ銀座に来て一緒に飲みましょうよ。『ヴィラ・バローネ』に先に入ってますね」と高級クラブに誘われた。◆私は自宅前で回れ右、井荻駅に向かって歩き出した。1時間後『ヴィラ・バローネ』に着いた。ホステスに囲まれたSさんは「遅かったですね、お疲れ様です」と笑顔で迎えてくれた。ホステスたちは「キノちゃん、遅ーい!駆けつけ3杯よ」などと言いながらウィスキーの水割りを作ってくれた。私は上手に、心から楽しんでいるフリをした。◆かわいい息子と遊ぶことができなかった。残念。「なんで『いま高田馬場です』なんて答えたのだろう?なんで『もう自宅です』と答えなかったのだろう?」私はホステスさんに囲まれて笑顔でお酒を飲みながらSさんと仕事の話をし、そして自分の言動を後悔していた。◆30年前の、あの失敗を今でも鮮明に覚えている。そして思う。あのとき、あのように振る舞うことができたから、今こうしてなんとか経営者として頑張っていられるのだろう、と。30年前の自分を誉めたい。「素晴らしい気配りでした、キノシタくん」と。
... 続きを読む
- コメント (0)