◎2023年11月12日 ---- ボス ◎
- 1本220万円のウィスキー
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ときどき行く銀座の老舗バーで一人で飲んでいるとマスターが笑顔で聞いてきた。「キノシタさん、珍しいウィスキーが手に入りました。いかがですか?」と。その「いかがですか?」は「一杯飲みませんか?」ではなく「1本買いませんか?」の意味であった。◆「バランタインの45年物」とか言っていた。「僕が買えるようなモノとは思えませんが、おいくらなんですか?」と訊ねると、その私より3歳年上のマスターはニコニコしながら「220万円です」と答える。「恐らくほかの店では300万円以上はすると思いますよ」と言う。「買えないけど、どんなボトルなのか見せてよ」とお願いするとマスターはまた笑顔で「これなんですよ」と私に木箱を差し出した。箱の上にボタンがついている。「そのボタンを押してみてよ」とマスターが言うので押した。自動ドアのようにギーっと音を立て、その箱が開いた。中には透明な瓶に入った琥珀色の液体が・・。「すごい」私は唖然とした。「ありがとうございます」と言って箱をマスターへ返した。◆そのタイミングでちょうどIさんが入って来た。Iさんはマスターと同い歳。私とも親しい。マスターはIさんに「Iさん、珍しいウィスキーが手に入りました。いかがですか?」と笑顔で聞いた。「見せて」とIさん。自動扉の箱を楽しんだIさんは「1週間売れなかったらオレが買うよ」と言う。マスターは笑顔で「ありがとうございます。でも1週間以内には多分売れてるよ思います」と◆その1週間後、私はまた一人でそのバーを訪れた。カウンターで「ベン・ネヴィスのソーダ割り」を飲みながらマスターに訊ねた。「あの220万円のバランタインどうなりました?Iさんが買ったのですか?」と。マスターがニコニコしながら答える。「あの日、キノシタさんがお帰りになったあと、まだIさんが一人で飲んでたのですが、別のお客様が買ってくれました」と。◆銀座のバーには我々の知らない大金持ちの酒好きが集まっている。そして彼らは皆、紳士である。酒の飲み方もキレイ。下品な高級クラブでセクハラもどきを楽しむような客はこの店には来ない。
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