2015年06月05日 ---- ボス

客は黙って去って行く(3)

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4年前のオープン当時、銀座のそのバーは落ち着いたムードでカウンターの女性たちの愛想も良く、明朗会計であった。私は1か月に3~4回は利用していた。常連客となった私に「キノシタさん、一杯いただいていいかしら?」とカウンターの女性が聞いてくるようになった。オープン1年が経過したころからその店の料金が徐々に高くなってきたように感じていた。◆今年の3月の終わり、私は部下のK君を連れその店を訪ねた。私のキープしているウィスキーをそれぞれストレートで一杯ずつ頼んだ。カウンターの向こうの女性がすぐに「キノシタさん、私も一杯いただいていいかしら?」と聞いてきた。「ダメ」とも言えないので「どうぞ」と答えた。彼女は私のボトルではなく店のシャンパンをグラスに注いで一口だけ飲んだ。すると隣にいた女性が「ねっ、私も飲みたーい」と言ってきた。私はK君と少し重要な話をしていたのでぞんざいに「どうぞ」と答えた。彼女もウィスキーではない透明な飲み物をグラスについだ。さらにママが出てきて「あらキノシタさん、お久しぶり。一杯いただくわね」だ。◆K君との打ち合わせを15分で終え、私は勘定を頼んだ。15分間、自分のボトルのウィスキーをストレートで1杯ずつ飲んだだけだ。乾き物のつまみすら出なかった。それでも勘定は3万円強であった。二人で飲むだけならオープン当時なら1万円でお釣りがきた。2年前でもツマミ込みで1万5千円だった。常連になり女性が甘え、勘定が高くなった。それが徐々にエスカレートしてきた。K君は値段を聞き驚いていた。私は笑顔で金を払って「またね」と言いながら店を出た。◆それ以来、その店には行かない。キープボトルにはまだ半分以上高級ウィスキーが残っていたが未練はない。◆女性との会話を楽しむのが目的ならそれなりの店に行く。もっと知的で楽しい会話ができる。もっと艶っぽい女性もいる。バーにはバーの利用の仕方、楽しみ方がある。この店のオーナーママは元は銀座のクラブのホステスだった。今の時代、銀座でも、「取れるヤツからは取る」などの商売で店が続くわけがない。客は黙って去って行くのである。




「私が「どうぞ」と答えると別の女性が私の前に来て「私もいただいてもいいでしょ?」と聞いてきた。「キミはダメ」と答える分けにもいかず「どうぞ」と答えた。すると奥からママが出てきて「あらキノシタさん、私も1杯いただくわ」と言った。私は自分のキープボトルをストレートで飲んでいた。つまみはなにも取っていない。付け出しすら出てきていない。15分で店を出ようとした。値段を聞いて驚いた。彼女らの飲んだワイン代が高くて総額は3万円を超えていた。2年前なら私の料金だけ5000円ですんだものが「常連」になり店のシステムが変わったら6倍になってしまった。その日を最後に私はその店には行かなくなった。店を去るにあたって私は一言も文句を言わなかった。笑顔で3万円を支払い、そっと決別を誓った。去ったのはもちろん私だけではない。かつての常連客はみな「高くなった」との理由でその店を離れた。新しい客はつかない。

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