母は私が中学生の頃、特別養護老人ホームの保母になった。３,４日に一度は夜間勤務がある。私が高校に入ると同時に姉は進学のため家を出たので、私は母が夜勤の夜は自宅に一人だった。監視がないと人間は緩い方へ流れる。母がいない夜は、一人で街をぶらぶらすることがあった。いや田舎のこと、街を歩けば知った大人や親戚に会う。人と会わぬよう、一人ぶらぶらさまよった。高校の成績は転がり落ちるように下がっていった。◆母には感謝。大変な思いをして、私たち姉弟を大学まで出してくれた。◆そんな母は７０歳を超えたころから少しおかしくなった。明らかに記憶力が減退してきた。通常の「老い」からくるものではないことは明らかだった。病院に行きたがらない母を無理やり連れて行った。軽度の認知症だった◆私は東京、姉は熊本に住み、母の面倒はなかなか十分には診られない。「介護付き有料老人ホーム」に入ることを勧めたが母は頑として聞き入れない。困った、困った。何年もかかって説得するが無理だった。その間に認知症はさらにひどくなる。「どうしたものか」、困り果てたころ母は突然亡くなった。脳出血だった◆来年２月、七回忌を迎える。七回忌の準備をしているところに「私のために」介護付き有料老人ホームの案内が届いた。そろそろ自分のための老人ホームの心配をしなければならなくなるのか。寂しいが仕方がない。少しずつ勉強しよう◆それにしても東京の老人ホームは高額だ。最後は田舎に帰ろうか。いや、それでは田舎に失礼か。いろいろなことを考え始めた。