◎2013年10月31日 ---- ボス ◎
- 奥の深い男
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15年くらい前だろうか、業界大手の商社と大喧嘩をした。まだ若かった私はその商社の担当者を大声で怒鳴りつけた。さらにその商社の社長に怒りの手紙を書いた。いろんなルートを通じ執拗に抗議を続けた。そうすることで問題が解決するはずもないことは理解していたが、舐められてはいけない。若い、うちの会社の社員たちにも示しがつかない。例えるなら、アンパイアの判定に猛烈に抗議し、退場させられるプロ野球の監督みたいなものだったろうか。◆その商社に私と仲の良い伊藤さんという紳士がいた。当時、彼もまだ若かった。そして伊藤さんは私が怒りの手紙を出したその社長を尊敬し信頼していた。伊藤さんは私にむかって「木下さんの誤解もあります。一度社長と会って話してみてください。彼は木下さんが思っているようなオトコじゃない、深く、キレイなオトコなんですよ。」と言った。若い私はとりあわなかった。「そっちが謝りにくるならともかく、なぜこっちが話に行かないといけない?」とかなんとか、伊藤さんにも強く当たった。その商社との距離はその事件を機に大きく開いていった。◆その商社との付き合いはなくなったが狭い業界、いろんな噂は聞こえてくる。そしてその社長を悪く言う人は一人もいない。経緯を全く知らずに「彼は立派だよ、木下さん、彼を紹介しましょうか?」などと言ってくる人もいた。ずっと私は気になっていた。10年が経ち、若い頃のパフォーマンスを反省しはじめた頃、業界のパーティーで偶然彼に会った。既にあの商社はリタイアされていたが彼の方から私に挨拶にきてくれた。「あのときは失礼しました。」と頭を下げてくれた。「いえいえ、私のほうこそ。若輩者が分別も知らず噛みついてしまいました。大変失礼しました。」と心から詫びた。話してみると確かに伊藤さんが紹介してくれたように「深い、キレイなオトコ」の人であった。そして、さらに5年が流れた。◆昨日、突然、メールが届いた。家人の具合を心配してくれてのことだった。医療にも詳しい彼からのメール、適切なアドバイスと励ましが込められていた。嬉しいことに、そしてもったいないことに、この稚拙な文章を毎日読んでくださっているとも書いていた。ありがたい。恥ずかしい。◆私も彼のように人間味のある奥の深いキレイなオトコになりたいと強く思った。川居さん、ありがとうございました。若い頃を無礼をお許しください。
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