◎2014年08月11日 ---- ボス ◎
- 成人式と自転車泥棒
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その当時、1月15日の成人の日に開催すると「(着物など)服装が華美になりすぎる」「大学生が帰省しづらい」との理由から、私の故郷・大分県佐伯市ではお盆休みの8月15日に成人式を行っていた。もう37年も前の話である。◆大学生の私は夏休みを故郷で過ごしていた。アルバイトで稼いだカネをすべて飲み屋で使っていた。二十歳の若者にとっては「今夜が楽しい」ことが一番だった。その夜も、今は故郷の中学校で校長になっているS君と飲んでいた。S君は自転車で来ていた。小さな田舎町、夜中に徘徊するには自転車が便利。私も自転車が欲しくなった。◆ちょうどそのときデパートの駐輪場の前を歩いていた。その駐輪場の片隅に壊れかかった自転車が数台、横積みに重ねられていた。一番上の自転車を引っ張り出した。鍵はかかっていない。ボロボロだが乗ることはできる。◆S君と二人、深夜の街を目的もなくうろついた。午前1時過ぎ、S君と別れ、私はボロ自転車を元あった場所へ戻そうとデパートの駐輪場へ向かった。駐輪場まであと50mのところで夜警のおまわりさんに声をかけられた。おまわりさんとは顔なじみであった。「おっ、またオマエか」。私は笑顔で返した「こんばんは、ご苦労様です」。最初はおまわりさんも笑顔だった。「どこに行っとったんか?いいなあ、学生は」雑談から始まった。◆「この自転車、誰の?」おまわりさんが聞いてきたとき初めて「ううっ、まずい!」と気付いた。自分はおまわりさんに咎められるような悪いことをしているという意識がそれまでは全くなかったのだ。最初は嘘でごまかそうとしたが通じなかった。10分後、トランクに自転車を積んだパトカーの後部座席に私は坐らせられていた。そのまま佐伯警察署へ向かった。佐伯警察署には怖い顔をした刑事課の係官が私を待っていた。◆明け方近くまで取り調べを受け一旦釈放された。翌日、自宅へ電話があった。「詳しい話を聞かせてもらうから再度8月15日に刑事課まで来い」というものであった。◆果たして8月15日、同級生が綺麗な格好で成人式会場へ向かうなか、スーツを着た私は佐伯警察署の刑事課に向かっていた。刑事課で指紋を取られ、顔写真を取られ、そして私は「遺棄物横領罪」とかいう微罪を言い渡された。特にお咎めはなかった。怖い顔した刑事も最後は笑顔になって「二度とここには来るなよ」と言ってくれた。◆母はこの事実を知らない。私は「成人式に行ってくる」と言って家を出ていた。取り調べが終わった私は急いで成人式会場へ向かったが、会場からはすでに同級生が出てきていた。親しい同級生に、彼がもらった記念品を借りた。「成人式に行ってきたよ。こんなものもらった」と、母親の目を欺くために。
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