◎2014年10月01日 ---- ボス ◎
- 幸せ
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かつて私の部下に小椋さんというキレイで優しくとても仕事のできる女性がいた。その当時、隣のヘリコプター会社に田内君というこれまた優しく真面目な男がいた。田内君はヘリの整備士だった。そしてその二人が結婚した。十数年前のことだ。◆姓が田内に変わった小椋さんは子供ができ私の会社を去ったがこの夫妻とはその後も時々連絡を取っていた。田内君は整備士を辞め、別の仕事を始めていた。若い彼には怖いものがなかった。小椋さんは笑顔で彼を見守り応援していた。だが残念ながら彼の仕事は順調とは言えないようだった。たまに会うと暗い顔をしていた。いや、彼が明るい作り笑顔をしているのが私には読めた。◆2年前、「うちで働かないか」と声をかけた。彼は「働かせてください」と頭を下げた。もともとのヘリコプター整備士の知識を生かして当社で働く彼に笑顔が戻ってきた。10年近く遠回りをしたのだから一人前になるにはまだ少々時間がかかりそうだが間違いなく誰よりも頑張っている。その彼に昨日エレベータの中でくだらない質問をした。◆「オマエ、人生でいつ頃が一番幸せだった?」と私が聞くと彼は躊躇なく「私は今が一番幸せだと感じています」と返してきた。「へえ、そうなの。いいねえ。」とさりげなく答えたのだが、実は部下のこういう返事を聞いて私は、とても、とても、とても嬉しかった。◆ふと田舎で一人暮らす母を思い出した。もう十数年前のことだ。なにを話していたのか覚えていないが「私はとても幸せよ」と母が笑顔で言った。あのときも、とても、とても、とても嬉しかった。◆だが残念ながら80歳を超え痴呆の初期症状があらわれている今の母はとても「幸せ」ではなさそうだ。悲しい。
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