◎2015年07月23日 ---- ボス ◎
- いいヤツばかり
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社会人のスタートを切ったのは前田建設工業であった。それまで自堕落な学生生活を過ごしてきた身にとって、都内の土木工事の現場監督という仕事はとてもとてもキツく苦しいものだった。よく働いた。誰にも負けず働いた、と思っている。4年を過ぎたあたりから少しずつ自信も出てきた。自信が出てくるとなお一層働いた。勉強もした。会議の席で発言をするようになってきた。相手が先輩だろうが上司だろうが、おかしいと思ったことには「それはおかしくありませんか?」とはっきり言った。「私はこう考えますがどうでしょうか?」と意見を言った。後輩に「おかしい」と指摘されたことが気に食わず、感情的に怒り出す先輩もいた。そんな先輩はどうしたことか決まって翌年には関東にいなかった。◆7年間、前田建設工業で勤務した後、大陽工業へ移った。大陽工業グループの総帥、酒井邦恭社主は「ライオンのような社員を見つけ出して、彼のために一つ会社を作り、すべてを彼に任せる」という独特な経営方針で事業を拡大させていた。私は決して「ライオンのような社員」ではなかったと思うが、結果的には35歳にして50名の部下を持つ取締役になった。もっとも若い取締役であった。大陽工業においても、先輩や上司に向かって「それはおかしい」とはっきりと言った。「はっきり言う」と言っても喧嘩腰で自分の意見を主張するということではない。会議の場では、穏やかな口調で言うことの方がもちろん多いのだが、「はっきりと」自分の考えを皆に伝えるよう心掛けた。◆20年以上経った。エアロファシリティーの社長になっている。社員の中に、かつての自分のような者がいないか探してみる。見当たらない。上司や先輩に向かって「それはおかしい」と発言する者を見たことがない。自分の不満を口にする輩は多い。陰で「あれはおかしいよ」と上司の考えを批判する者もいる。「会社の利益を上げるためには、それはおかしい」「堅固な組織を形成するためには、それはおかしい」」「社会的道徳観から見たら、それはおかしい」「社員規定に抵触するから、それはおかしい」と公の場で発言する者を見たことがない。人間的にはみんな「いいヤツ」ばかり。私の目には、彼らは波風が立つことを避けているように見える。「おかしい」と発言しているのは「自分個人のため」だけになっている。◆心配になってきた。「発言して嫌われるよりは黙っていた方がいい」と考えてのことならまだ救われる。なにも考えていないから「おかしい」ことにさえ気づいていないのであれば深刻である。
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