◎2015年09月15日 ---- ボス ◎
- こすれる音
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「バイオリンの音はこすりあわせて出すじゃあ。わたしゃ、あのこすって出る音が好きじゃないんよ。まだギターみたいに弾いて出す音がいいし、やっぱり叩いて出すピアノの音が一番いいな」 私が高校生の頃、テレビで『題名のない音楽会』を観ながら母はよくそういうことを言っていた。「こすれる音が好きじゃないんよぉ」との母の発言を何度聞いたかしれない。◆幼い子供二人を母に残し、父は交通事故で他界した。そのとき母は33歳であった。それ以来、一切贅沢をせず、懸命に私たち姉弟を育ててくれた。恐らく母は私の小学校の音楽会以外は生の演奏会に行ったことはないのだろう。演奏会どころか演劇も(もちろん宝塚や劇団四季も)観に行ったことはないだろう。ひょっとすると父が他界して以降は映画館にも行ったことがないかもしれない。かわいそう。申し訳ない。◆「こすって出す音が好きじゃない」という母親に育てられた私だが、なぜだか逆にバイオリンの音が大好きだった。やっと買ってもらったステレオで高校生の頃、イムジチの演奏する「アイネ クライネ ナハトムジーク」をレコード盤が擦り切れるほど聴いた。大学生になりジャズを聴くようになってもジョー・ヴェヌーティやステファン・グラッペリなどのジャズヴァイオリンが大好きだった。昨年、カントリーミュージックを聴きに米国ナッシュビルに行ったのだが、そこでもフィドル(ヴァイオリンのこと)が入っているバンドの演奏ばかりを追いかけていた。そして東京では二胡のウェイウェイウーのコンサートには必ず顔を出す。◆10年ほど前の話になる。招待されて八尾の「おわら風の盆」を観に行った。流雪用水路を流れる雪解け水の音。人々の話声。そこに編み笠を被った集団がゆっくりゆっくりと踊りながら近づいてくる。胡弓の音が徐々に大きくなってくる。幻想的。もの悲しい。「こすれる音」は本当にもの悲しい。念のために申しておくが、形も音色もとても似た感じの楽器「二胡」と「胡弓」だが構造も奏法も全く違うもののようです。◆ヴァイオリン、フィドル、胡弓、二胡、ついでにチェロまで 私はこすって音を出す楽器の音色がたまらなく好きだ。
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