2016年05月25日 ---- ボス

残酷な、「大丈夫?」という言葉

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「『大丈夫じゃない』って言ったらなんとかしてくれるわけ?・・・・・そんじゃ『大丈夫?』なんて聞かないでよ!」◆私が店に入って来たのも気付かず、オバサンは電話に向かって大声を出していた。電話を切って振り返り、私に気付くと慌てたように「あら、キノシタさん、いらしてたの? 失礼しちゃったわね、恥ずかしい」と昭和女性のキレイな言葉で迎えてくれた。銀座の小さなとてもとても美味しい洋菓子店。険しかったオバサンの顔は私に話しかけながらいつもの穏やかな顔に戻っていった。◆大量の注文が入ったので製造部に出荷をお願いした。工場からは明日のお昼に届くという。「それを私一人で包装しなくちゃならないのよ。接客しながらでしょ?何時間かかるかしら。明日は店を閉めた後もずっと包装しなくちゃね」と言いながらまたオバサンの顔は険しくなった。「製造部に注文を出したら『一人で大丈夫ですか?』と聞いてくるから『大丈夫じゃない!』って言ったらなんとかしてくれるわけ?って聞いたのよ。そしたら『いえ、頑張ってもらうしかありませんね』だって! 私アタマにきちゃったわ。なにもできないんだったら『大丈夫ですか?』なんて聞いてくるなってのよ」・・険しい顔をしてもオバサンの昭和言葉は美しい。上品。私はこのオバサンと仲がいい。大好きなオバサン◆「わかる、わかる。オレも随分と腹が立ったことがあったよ。・・・サラリーマン辞めてね、独立を目指していた頃、大学の同級生が会うとかならず『大丈夫か?』と聞いてくるのよ。こちらはもう引き返すことができない、大丈夫かどうか分からない、ただ必死で頑張っているときに、大企業や役所で働く同級生が「大丈夫なの?」と聞いてくる。あんなに腹の立つ言葉はないよね」・・・話しながら私も当時のことを思い出して顔が険しくなってきた。「こっちが 『大丈夫じゃないんだ。助けてくれ』 と言っても結局はなんもしてくれない、なんもできないヤツが聞いてくる。あれ、本当に腹立つよね」◆聞いてくるほうには悪気はないのだろう。心配して言ってくれているのかもしれない。だが「大丈夫じゃない」とは言えないこちらにとっては「大丈夫か?」という言葉は、当時はただ残酷な言葉として響くだけだった。◆私とオバサンは共通の「腹立つ経験」でまた仲良くなった。お菓子を買ったら「オマケ」がいっぱいついてきた。◆

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