◎2016年06月02日 ---- ボス ◎
- 吾亦紅
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社員旅行、ハワイからの帰国便、私はANAのビジネスクラスシートでくつろいでいた。ホノルルから東京に戻るまで機外も機内も明るい昼間なのだが遊び過ぎの体はとても眠たかった。ちなみにホノルル離陸が現地時刻午後1時、成田着がこちらの午後4時の便であった。◆海外へのフライトの間、いつも私は音楽を聴きながら読書を楽しむ。音楽はもっぱらジャズ。ANAのオーディオプログラムにはジャズだけで20枚程度のCDが入っている。ところが残念なことに今回のフライト、私の好きなジャンルのジャズが少なかった。その少ないCDをハワイへ向かう、行きの機中で何度も聴いた。帰りの便も同じ番組だったので飽きてしまっていた。そこでジャズを離れ、歌謡曲の「懐かしの音楽」を聴いてみることにした。「好きよキャプテン」「夜明けのマイウェイ」「別れの予感」など私が好きだった懐かしい曲が続く。「夜明けのマイウェイ」なんて何年ぶりに聴いたのだろう。なかなか素晴らしい選曲。感心しながら美味しいワインを飲んでいた。「星降る街角」が終わったところでまたまた超懐かしいイントロが聞こえてきた。森昌子だ。「おかあさん」だ。「やせたみたいーね おかあさん・・」聴きながら私は今年二月に亡くなった母を思い出していた。苦労ばかりかけた。母はパスポートを持っていなかった。元気なうちにハワイへ連れてきてあげたらどんなに喜んでくれただろう。間に合わなかった。私に少し余裕ができたころには既に頭も体も十分過ぎるほど老いていた。認知症が発症していた。◆「おかあさん」は3番の歌詞に入った。「感謝してまーす おかあさん たまには肩もみ しましょうね」・・私は子供のころ以来、40年以上も母の肩を揉んであげた記憶がない。「もっと優しくできなかったものか・・・?」 ワインの酔いも手伝って、涙が出てきた。「まずい、かっこ悪い」と人差し指で目頭を押さえているときにやっと「おかあさん」が終わった。少しほっとしていると続く曲がすぎもとまさとの「吾亦紅(われもこう)」だった。追い打ちをかけられた。すぎもとまさとが母に向かって「あなたに あなたに 謝りたくて・・・」と切々と歌い上げる。涙が一粒、二粒と頬を伝う。「まずい、かっこ悪い」ハンカチを取ろうとポケットに手を入れたときにスチュワーデスがやってきた。「ワインのお替りはいかがですか?」・・私は泣き笑いの顔を気づかれないように黙って何度も頷いた。優しいスチュワーデスはソービニヨン・ブランを並々と注いでくれた。◆まだまだ「吾亦紅」は続いていた。・・・「あなたに あなたに謝りたくて 仕事に名を借りた ご無沙汰」・・「あなたは あなたは家族も遠く 気強く寂しさを耐えた」・・「あなたの あなたの見せないキズが 身に染みていく」・・「親のことなど 気遣う暇に 後で恥じない 自分を生きろ」・・「あなたに あなたに見ていて欲しい 髪に白髪が混じり始めても オレ死ぬまで あなたの子供」・・・・◆歌謡曲は泣かせてくれる。
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