◎2016年08月29日 ---- ボス ◎
- 神輿を担ぐ者、ぶら下がる者、担いでないのに担いでいる気の者
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経営に関して私の先生は、大陽工業株式会社の創業者であり社主であった故酒井邦恭さん。私は「酒井オーナー」と呼んでいた。酒井オーナーはいつも笑顔で、若い私に会うと必ず優しい言葉をかけてくれた。その酒井オーナー、経営の話になると厳しい顔つきに変わっていた。「経営は難しいよ。特に人。『企業は人』というけど本当にそうなんだよ。その『人』の管理が一番難しいんだよ」と話し始める。そして必ずこの言葉につながる。「神輿は重たい方がいい。その重たい神輿を社員みんなで一所懸命に担いでいる間は大丈夫。だけどねキノシタ、会社が少し大きくなると神輿の担ぎ手も多くなるだろ。そうなると、注意して見ていないと神輿を担いでいるフリをする奴が出てくる。ひどいときには神輿棒にぶら下がっている奴がいるよ。こうなったらすぐにその会社は終わっちゃうんだよ」◆実際に解雇していたのかどうかは知らないが、酒井オーナーは「神輿にぶら下がっている奴はすぐに辞めてもらうのが一番なんだよ。そうじゃないとその隣の奴までぶら下がり始めるからね」と話していた。この話を私は何度聞いたか知れない。◆酒井オーナーはもう一つ重要なことを教えてくれた。「キノシタ、お前さんは今、神輿の先頭に立って一所懸命に神輿を担いでいるよな。それでいいんだ。社員が少ないうちは社長が一番重たいところを受けなきゃな。でもな、少し人数が増えてきたらお前さんが神輿の先頭で担いでたんじゃダメになるよ。今度は神輿全部が見えるところに立ってぶら下がっている奴がいないかを見るのがお前さんの仕事になる。さあ、お前さんがそこまで行くのか、ゆっくり見物させてもらうよ」そう話すときには酒井オーナーはまた元の笑顔に戻っていた。◆「いつも同じところで悪いが、前のアスターでラーメンでも食べていけよ。ごちそうさせてもらうよ」優しく誘ってくれた。アスターというのはオーナーのいらした銀座オフィスの向かいにある中華料理店のこと。果たして今の私はどこにいるのか、社員みんなを見渡せているのだろうか。酒井オーナーはどこかで私の経営の様子を見物してくれているのだろうか。先週、木曜日、私は酒井オーナーの7回目の命日を、出張先の金沢の街で過ごした。ひがし茶屋町を歩きながら優しかった酒井オーナーを思い出していた。
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