◎2016年10月03日 ---- ボス ◎
- アーケティング
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上京してきて半年たった頃のことだ。私はまだ独身で、もちろん若かった。その夜、私は先輩に連れられて新宿で飲んでいた。少し酒が回った頃、その先輩が「キノシタ、ピンサロに行こうよ」と誘ってきた。私はそれまでピンサロなる場所へ行ったことがなかった。スポーツ新聞や週刊誌の情報で、ピンサロではどんなサービスが行われているかはよく知っていた。「行ってみたいです」私は即座に、素直に答えた。歌舞伎町のそのピンサロの前には女性たちの写真が並んでいた。若い女性ばかり、どの子もかわいい。写真の横に「指名料2000円」と書いてあった。「キノシタ、どの子でもいいのなら指名しなくてもいいんだよ。オレは明美ちゃんを指名するけどね」と先輩が言う。「そうですか、じゃ、オレ指名料を節約しようかな。どの子でもいいや、みんなかわいいし」・・そう言いかけたときに一人、とんでもない女性が目に入った。「ラブちゃん」というその女性は私よりも体重がありそうだった。「オレが誰も指名しなかったら、きっとこのラブちゃんがオレのところにやって来るのだろう」そう思った。それだけは避けたかった。私は2000円の指名料を払ってラブちゃんの隣の写真の子を指名した。その店はデブの「ラブちゃん」を置いておくことで指名料を稼いでいた。誰からも指名されない「ラブちゃん」にも十分な在籍の意味があった。◆最近、腰痛がひどくなったのでマッサージに行くことが多くなった。ニュー新橋ビルの中のその店はマッサージをしてくれる女性が5~6人在籍している。すべて中国人で、みんな愛想もよく、そしてみんなマッサージが上手い。残念ながら美人はいない。若い女性もいない。指名料はタダだが私は特定の女性を指名しない。どの人でもいい。私はマッサージ嬢みんなから名前を憶えてもらっている。私の顔を見ると「キノシタシャチョウ、イラッシャイ」とみんなが笑顔で迎えてくれる。そのマッサージ店に2か月ほど前、新しい女性「Kさん」が入ってきた。ところがこの「Kさん」の腕が悪い。だが人の良い私は「あなた下手ね」とは決して言わない。Kさんに向かっても「ありがとう。おかげで楽になりました」と笑顔で料金を払って帰る。そう、私はとても良い客なのだ。だが行くときには「今日はKさんに当たりませんように」と願っている。そして徐々にマッサージ店に行くことが少なくなった。◆多くの〇の中に一つの✕。ピンサロの✕であった「ラブちゃん」は売り上げに大きく貢献し、マッサージ店の✕「Kさん」は売上減に繋がっている。私はこんなところからもマーケティングの勉強をしている。
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