2016年12月22日 ---- ボス

養育方針

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家人が子供たちに対し「勉強しなさい」と言うところを見たことがなかった。受験を控えているのに子供たちはいつもリビングルームで家人と一緒にテレビを観ていた。その当時、私はいつも不機嫌だった。仕事は忙しく、それでいて売り上げも利益も上がらず不安だった。私は毎夜、帰宅すると子供たちに向かって「オマエたちは勉強しなくていいのか?」と厳しい顔して問うていた。そのうち、私が帰宅するとそれまでテレビを観ていた子供たちが「怖いオオカミが来た!」というように急いで自分の部屋に逃げるようになった。私の帰宅時刻までが彼らの楽しい憩いの時間、私の帰宅後は彼らにとって自室で過ごさねばならない孤独な時間となった。◆ある日、家人が私に向かって話し出した。「今日ね、トモ子ちゃんのところに行ってたの・・・」と。  トモ子ちゃんというのは娘の同級生だ。家人の声が少し大きくなった。「トモ子ちゃんのママがね、トモ子ちゃんに『勉強しなさい!』って言うと、トモ子ちゃんのパパから『そんなこと言うな』って注意されるんだって」だと。 「トモ子ちゃんのパパはね、トモ子ちゃんのママに向かって『トモ子が楽しそうに勉強しているか?子供がイヤイヤするようなことを親が強制しちゃダメだよ』って言うんですって」と言う。まるで「あなたもトモ子ちゃんのパパを見習いなさいよ」と言わんばかりだ。そこには「あー、トモ子ちゃんのママが羨ましいな」という響きが確かにあった。それを聞いて私は激怒した。「トモ子ちゃんのところにはトモ子ちゃんのところの教育方針があるだろう。なぜそれをオレがマネしなけりゃならない。オレは、今子供たちが勉強する方が彼らの将来のためになると思って注意している。オレに言わせりゃ子供に向かって『勉強しなさい』って言わないキミやトモ子ちゃんのパパの方がよほど子供のことを思っていないんだよ。『今が楽しけりゃそれでいい』っていう無責任な親だよ」 家人は黙った。その翌日から家人が子供たちに向かって「勉強しなさい」と言うようになったか、というとそうではない。家人はトモ子ちゃんの両親と教育方針が一緒のようだった。◆私が帰宅すると、テレビの音が消え、子供たちが自分の部屋にさっと逃げ込む日々が続いた。その甲斐があったのか娘も息子もなんとか希望の大学に進学できた。彼らが二十歳を超えてからは私は彼らを大人として扱うようにした。もはや人生の先輩としての助言はするが「勉強しなさい」と注意することはない。◆私は今でもあの当時の私の考えは間違っていなかったと思っている。「あの頃の父さん、怖かった」と娘も息子も笑顔で思い出話をしてくれる。

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2024年04月24日 ボスの
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