2015年11月02日 ---- ボス

太ももの痛み

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本格的な秋の深まりを感じるこの季節になると必ず、昔痛めた左足太もも裏側ハムストリングがしくしくと痛み出す。◆平成3年か4年だったろう。当時、私の仕事場は新木場の東京ヘリポート内であった。有楽町線の終点、新木場駅で電車を降り、そこからはバスで東京ヘリポートに通う毎日であった。まだパスモやスイカのない時代、電車で通う者は定期券を駅員に見せて改札を抜けていた。切符の者は自動改札機を通していた。◆その日、コートを着ていたから季節は冬だったのだろう。新木場駅で私の前を歩く男は切符を自動改札機に通さずに何かを駅員にチラっと見せて改札を抜けようとした。駅員に止められた。「お客さん、定期券を見せて!」と駅員が詰める。するとその男は「定期券じゃねえよ、今、切符を通したよ」と言い出した。駅員が「いや切符は通してないでしょ!」とさらに詰め寄る。男は「通したよ」と繰り返している。その男の真後ろで彼の行動を見ていた私は「切符入れてないよな、定期券見せるフリしてたけどな」と言って駅員を応援した。駅員は私に「すみません、ちょっといいですか?証人になってもらいたいのですが・・・?」と頼んできた。正義感の強い私はなんの躊躇もなく「いいですよ」と答えていた。◆駅員二人が彼を挟むように歩き、新木場駅隣の交番へ向かった。私は彼らの後ろをついて言った。一人の駅員が彼のコートのベルトをつかんでいた。彼は立ち止まってその駅員に向かってすごんだ。「ベルト持つなよ。逃げねえよ」。交番まで20mくらいのところだった。駅員はベルトから手を放した。その瞬間、ヤツが走り出した。不意を突かれて駅員のダッシュは遅れた。「待て!」と叫ぶが足は動かない。彼を追いかけたのは私だった。右手に大切な書類が入ったカバンを持っていた。放り出すわけにいかない。彼も右手に小さなカバンを持っていた。条件はほぼ同じ。150mくらい追ったが距離は縮まらない。離れもしない。彼と私のスピードは同じだった。さらに追いかける。突然、左足太ももがブチンと切れた。私は歩道に倒れた。私が倒れて10秒くらい経ったころ、駅員が私の横をトロトロと走っていった。駅員もまだヤツを追いかけていたのだ。◆私はタクシーを捕まえて仕事場へ向かった。すごい痛みに耐えて午前中は会議をこなしたが午後から整形外科に行き、夕方は松葉杖をついていた。ハムストリングの肉離れであった。ヤツはおそらく逃げ切ったのだろう。駅員からは感謝の言葉も、お見舞いもなかった。「大丈夫ですか?」とすら言ってもらえなかった。私がタクシーに乗って消えたのだからしようがないか。もちろんタクシー代も病院費用ももらえなかった。◆寒くなると左足太ももが痛む。あの日のことを思い出す。もし、肉離れにならず、ヤツに追いついていたらどうなっていたのだろう。「刺されていたかもしれないな」、そんなことを考えて怖くなる。若い頃は恐ろしいものがなかった。

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2024年04月26日 ボスの
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